記事: 【NEW】流動の中に、意志は宿る。 画家・門田光雅表現(後編)
【NEW】流動の中に、意志は宿る。 画家・門田光雅表現(後編)
既存の制度や所属を前提とせず、自ら展示空間や機会を創り出してきた門田光雅氏。貸し画廊からコマーシャルギャラリーへと移行する過渡期には、「アーティストラン」という形で展示空間を自主運営。不動産会社と連携した空室活用にも取り組んできた。
その姿勢は現在、法人化や企業との協業といった新たな挑戦にもつながっている。表現をいかに社会と接続していくのか――。門田氏は今、その問いに向き合い続けている。
法人化の目的は「経営者になること」ではなかった
2022年、門田光雅氏は法人を設立した。
しかしそれは、単に事業を拡大するためではなかった。門田氏の中には以前から、「既存の仕組みだけに依存せず、新しい挑戦をしていきたい」という思いがあったという。
「もちろん、ギャラリーを中心とした既存のアートマーケットには素晴らしい部分がたくさんあります。ただ、作家である以上、新しいことに挑戦してみたいという気持ちがずっとありました」
これまで門田氏は、既存の制度や所属を前提とせず、自ら展示空間や機会を創り出しながら活動を続けてきた。その姿勢は、法人化という選択にも地続きでつながっている。
門田氏にとって法人化とは、単に「経営者になること」ではなかった。表現をどのように社会と接続し、持続させていくのか。そのための土台を築くという意味合いが大きかったという。その視点は、法人化後、企業との協業や新たな流通への挑戦にもつながっていくことになる。
企業と表現者が「新しい接点」をつくっていく
その後、門田氏は家具ECサイト大手『FLYMEe』(フライミー)との協業にも取り組む。きっかけは、建築家の友人を介した出会いだった。
互いに「新しい風を入れたい」という感覚を共有したことから、門田氏の作品は『FLYMEe』のECサイト内で、現代美術作家として初めて取り扱われることになった。興味深いのは、単なるオンライン販売にとどまらなかった点だ。『FLYMEe』では実際に社内空間へ作品を展示し、ネットとリアルの双方で表現に触れられる場を生み出している。
単なるギャラリーと作家の関係にとどまらず、企業と表現者がつながることで、表現の可能性そのものが広がっていく――。門田氏は、そこに新たな可能性を感じている。
「アーティストも社会の一員」という考え方
企業との協業や新たな活動が広がる一方で、門田氏が大切にしているのは、人との信頼関係だという。
「約束を守る、きちんと挨拶をするって、当たり前なんですが、とても大切ですよね。作品だけじゃなく、人との関わり方や距離感も大事にしたいと思っています。そういう積み重ねもまた、表現につながっていくような気がします」
アーティストというと、どこか社会から距離を置いた存在として語られることも少なくない。しかし門田氏は、自らもまた「社会の一員」であるという感覚を大切にしている。 個性を持ちながらも、人を傷つけないこと。当たり前のことを丁寧に積み重ねていくこと。その姿勢もまた、門田氏の表現を支えている。
揺らぎの中に人間の感覚を見る
日々、当たり前のことを丁寧に積み重ねる。門田氏の姿勢は作品にも通じている。門田氏は、「表現は技法だけではなく、自身が何を感じ、どう向き合ってきたかが表れるもの」だと考えている。
「美術は、人間の“感覚拡張”なんじゃないかと思っています」
人はそれぞれ異なる経験や感情を抱えながら生きている。門田氏自身もこれまで、家族の問題や環境の変化など、さまざまな出来事を経験してきた。その中で生まれた強い負の感情や揺らぎは、作品にも少なからず影響を与えているという。
「表現者は、揺るぎない信念を持つことが大切だと思っています。辛いことや挫折もたくさんありましたが、そういうものも含めて、まだ誰も気づいていない感覚や景色を見せることができるのが芸術なんじゃないかと」
かつて印象派が、「印象しか描けていない」と揶揄されたように、新しい表現は最初から受け入れられるとは限らない。それでも挑戦を続けることで、門田氏の感覚や価値観は少しずつ更新されていく。
ニューヨークとアクリル絵具が変えた表現のスケール
そんな門田氏が現在のような抽象表現へ大きく舵を切ったのは、25歳の時に訪れたニューヨークでの体験がきっかけだった。
当時のニューヨークは、門田氏にとって“世界の最先端”というイメージの街だった。しかし実際に目にしたのは、洗練された都市の風景だけではない。貧富の差や、街に漂う緊張感、壁に描かれた無数の落書き――。そこには、日本とは異なる“生きることの生々しさ”があったという。
その体験は、門田氏の表現にも大きな影響を与えた。ニューヨークで出会った巨大な帆布に惹かれた門田氏は、以後、大きな画面と抽象表現へと向かっていく。そして同時に、本格的に使い始めたのがアクリル絵具だった。アクリル絵具は、メキシコ壁画運動の中で発展した速乾性と耐水性を持つ素材。門田氏は、「機能性だけではなく、街や公共空間と結びつきながら生まれた背景や思想にも強く惹かれた」という。
現在の作品でも、門田氏はアクリル絵具に砂やメディウム(絵具に混ぜて質感や表現を変化させる補助材)などを混ぜながら、流動的な質感や偶然性を生み出している。
「故郷の波や風の流れの記憶が、絵具の重なり合いの中で響き合う。その瞬間に、面白い表情が生まれるんです」
素材、感覚、記憶。それらが混ざり合いながら、門田氏の作品は形づくられていく。
道具は感覚を支える「相棒」
作品を生み出す上で、門田氏は「道具」との関係性も大切にしている。波や風の流れのような感覚を表現するため、特定のスタイルや方法に固執しすぎないことも意識しているという。こだわりを手放した時にこそ、思いがけない表情や偶然性が生まれることもあるからだ。
そうした感覚は、日常で使うアイテム選びにも通じている。現在、門田氏が愛用しているのが、HAGANのスマートフォンケースだ。
「こうした手帳型の高級ケースを使ったのは初めてでしたが、使っているうちに、“経営者としての自分”が呼び覚まされる感覚を覚えました」
門田氏は現在、画家として活動する一方で、自ら立ち上げた会社の経営にも携わっている。HAGANを手にした時、芸術と経営は切り離されたものではなく、社会と向き合うための両輪であることを改めて感じたという。
「革なので、使っていくうちに自然と手になじんでいく感じがいいですね。内側のポケットには自社の名刺を入れているんですが、開くたびに“がんばろう”って思うんです」
表現を支えるものは、作品だけではない。幼少期に見た自然の記憶、ニューヨークで触れた都市の空気、そして日々手にする道具――。そこには常に、門田氏自身の感覚や姿勢が反映されている。
5月7日〜6月18日に開催のNYの個展の様子
※セゾン現代美術館のリニューアルオープンのコレクション展に出品予定。詳細は以下より。
https://smma.or.jp/news


